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Channel: ◆デカダンスの彼方へ.....◆
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Vol.0037:映画『夜 / LA NOTTE』のラブ・レター

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大富豪ゲラルディーニ邸で開かれていたパーティーの夜明け・・・ゲラルディーニ邸の庭からそのまま繋がっているプライベート・ゴルフ場に歩いてゆくジョヴァンニ Giovanni(マルチェロ・マストロヤンニ Marcello Mastroianni)とリディア Lidia(ジャンヌ・モロー Jeanne Moreau)・・・。

以前(10年前)、2人が愛に溢れていた時期に、ジョヴァンニ Giovanniがリディア Lidiaに贈った「ラブ・レター」を、リディア Lidiaが"夫婦の愛の倦怠の哀しみに打ちひしがれ"、失意のあまり、バンカーのへりに腰掛けて、ジョヴァンニ Giovanniに朗読して聴かせるシーンがあります。

まさに"一撃必殺"のラブ・レター。

結婚10年目。
当代一流の人気作家に上り詰め、上流の社交界でのサイン会、パーティーが日常になっているジョヴァンニ Giovanni。
ジョヴァンニ Giovanniは、"その手紙"が、自分が10年前にリディア Lidiaに書いた「恋文」であることさえ忘れてしまっています。


■リディア Lidia(ジャンヌ・モロー Jeanne Moreau)はジョヴァンニ Giovanni(マルチェロ・マストロヤンニ Marcello Mastroianni)に語りかけます。

リディア Lidia:"今夜、死にたいと思ったのは、あなたを愛していないからよ。
        だから絶望しているの・・・。
        私が老婆なら、あなたに生涯を捧げたことになるのに、もう愛せないのだから、生きてても無駄よ・・・これが私の考えよ。
        あなたがナイト・クラブで退屈してた時にね・・・。"
ジョヴァンニ Giovanni:"君がそういうのは・・・死にたいというのは、僕を愛している証だ。"
リディア Lidia:"いいえ。同情してるだけよ。"
ジョヴァンニ Giovanni:(バンカーの脇に腰をおろし)
             "君に与えたものは何もない。僕は少しも気づかなかった・・・。
             愚かにも、人生を無駄に生きてきた・・・取るだけとり、与える事はしなかった.....。
    価値のない男だと言うならそれが正しい。"
リディア Lidia:・・・・・・。
ジョヴァンニ Giovanni:"愛してる.....今も君を愛してる。言えるのはそれだけだ。
              さあ、帰ろう!"
リディア Lidia:(ハンドバックから、便箋を取り出して、突然朗読を始める・・・そして、朗読が終わる。)
ジョヴァンニ Giovanni:(あまりにも"情熱的"な「恋文」に圧倒された感じで・・・)
             "誰からの手紙だ?・・・"
リディア Lidia:"あなたからのよ・・・。"
ジョヴァンニ Giovanni:(言葉を失い.....愕然として恥入るジョヴァンニ。
              リディアの手の甲に浴びせるようなKISSをし・・・そして感極まったジョヴァンニはリディアをバンカーに押し倒し、情熱的に掻き抱き、愛撫する・・・。)
             
(ジョルジョ・ガスリーニ Giorgio Gasliniの咽び泣くテナー・サックスのメロディーとともに"FINE"のクレジット)


■ジョヴァンニ Giovanni(マルチェロ・マストロヤンニ Marcello Mastroianni)からリディア Lidia(ジャンヌ・モロー Jeanne Moreau)への「ラブ・レター」

"今朝、目覚めたら君は眠っていた・・・。
眠りから覚めながら君の優しい寝息を感じた。
君の顔にかかる髪を透かして君の閉じた目が見えた・・・。

いとおしさで、息苦しい程だった・・・。
僕は叫びたかった。
疲れ切った君を揺さぶり起したかった・・・。

薄日の中で君の腕や喉が生き物の様に見えた。
君のその肌に唇を寄せたかった・・・。
だが眠りを妨げない様に
僕は君を腕の中に抱きはしなかった・・・。

僕だけの君をそっとしておきたかったからだ。
永遠に君の像を
君の持つ清らかさが僕をも清めてくれた。

君は僕を包んでくれた・・・僕の全生涯を・・・僕の未来を。
君に出会う前の何年間までも包んでくれた・・・。
それは目覚めの奇跡だ。

その時僕は、君は僕のものと感じた。
今も・・・寄り添って寝る夜も。

君の血の温かさや考えや意志が僕に溶け込む。
その時、君に深い愛を感じ、
僕は感動の余り、目に涙さえ浮かべるのだ。

僕は永久に変わらぬと思った。
毎朝同じ目覚めの奇跡を感じると思った。

君は僕のものだけではなく、僕の一部だ。
これを崩すことは何ものにもできない。
ただ日々の習慣が、冷酷にもこれを崩すかと不安だ・・・。

その時、君が目覚め、微笑んで僕に接吻した。
僕たち2人の間には、何の不安もない事を確信した。
僕らの絆は時や習慣より強いことを・・・。"


●『夜 / LA NOTTE』(1961)
監督:ミケランジェロ・アントニオーニ Michelangelo Antonioniより。

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